フィンドリー・B. エッジ

         『活ける信仰を求めて:

神学的アプローチによるキリスト教教育論』

 

 今月(2019年10月)より、米国南部バプテストにおけるキリスト教教育の古典的著作を全訳連載いたします。原著は Findley B. Edge. A Quest for Vitality in Religion: A Theological Approach to Religious Education. Nashville: Broadman Press, 1963. で、刊行時、南部バプテストのみならず 教派を超えて、当該分野で高い評価を得た著書です。書名の上掲邦訳については別途説明しますが、今回の訳出は改訂版(1994年刊)から行ないます。改訂版は原著に 著者の後任教授の手になる「はしがき」と「参考文献(追補)」を加えたもので、それ以外は原著のまま、初版の文章が収められています。

 著者のフィンドリー・B. エッジは 1916年、アメリカ・ジョージア州に生まれ、2002年、フロリダ州でその生涯を閉じました。この間、南部バプテスト連盟のサザンバプテスト神学校で神学博士の学位を取得。その後も、イェール大学をはじめ、イギリス、ドイツ、スイス等で更なる研究を重ねています。教授職としては 1947年から1984年の期間、一貫して、母校のサザンバプテスト神学校でキリスト教教育を担当しました。

 エッジの最大の関心事は、教会の組織制度偏重主義とそれに伴う教勢主義の危険性に、また そこから生じる社会的意識の薄弱さにありました。公民権運動への南部バプテストの消極的態度もこうした問題性を露わにするもので、その根にある神学的課題に、エッジをいま一度 向かわせるようになります。聖書が教える本来の信仰とは? その信仰に押し出された生き方とは? 社会とその文化に対する信仰者の関わり方とは? 宣教における一般信徒の重要性とは? そして、これらの全体を現実にする教会のあり方とは? エッジが本書で論じるこうした主題は年月を経たこの時もなお今日的であり、かつまた、日本の諸教会にも決して無関係な事柄ではないように思われます。

 実際、エッジが本書(初版)を著わした1960年代は、南部バプテストがかつてないスピードで教勢を拡大し、組織を拡張し始めたときでした。その兆しのなか、エッジはそこに 信仰の形骸化が潜む危険性を鋭く感じ取り、本書を公にしたのでした。南部バプテスト連盟はその後、2,000年の信仰宣言を顕著な契機として、その変容が明白になります。そして、信仰的に教条化し、各方面で閉塞する今・この時を迎えています。その意味でも、本書におけるエッジの論考は実に的確で、預言者的嗅覚に満ちていると言えるでしょう。

 本書は英文200ページ余の著作のため、訳文の連載は長期にわたる見込みです。しかしながら、バプテストの教会教育を真摯に考究する者にとって、本書は間違いなく「マスト(must)」の一書と思われます。教会の信仰に潜む諸問題とそれらの克服について、歴史的・神学的に、そして教育的・預言者的に探求する本書の読み取りに忍耐強くおつき合いいただければ幸いです。

 ちなみに、エッジが親交を結んだ人物としては、同様に神学的アプローチで教育を論じた学者、ランドルフ・クランプ・ミラー(Randolph Crump Miller)がいます。また、エッジは召される前、CBF(協力バプテストフェローシップ)系列の神学校等にその蔵書を寄贈しました。CBFは南部バプテスト連盟内の準独立グループで、こうしたところからもエッジの立場が見て取れます。エッジもまた、健全なる時代の南部バプテストを代表する学者の一人でした。

 なお、訳出は、原著のインパクトと息吹を減じないよう、エッジ本人の文章から(「序」から)始めます。改訂版で追加された部分については、最後に訳出し、全体に組み入れる予定です。

 (掲載は随時、不定期)

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